【妄想男子と恋のゆくえ。】21


 辺りを見廻して、俺の隣に座る田中に「森は?」と聞いた。
田中は俺の顔をポヤーンと見て、「ああ、森くんなら帰った。」という。なんともあっさりとした答えが返ってきて、さっきまで普通に飯食っていたのに・・・・?と呆気にとられる。

「具合でも悪くなった?」
そう聞く俺に、「ううん、用事で帰るって言ってた。先生には言ってあるらしいよ?!」と言われ、今朝は先生も森本人もそんな事言ってなかったじゃん、ってちょっとだけムッとなった。
ムッとなって、そういえば今朝から森とはまともに喋っていなかった事に気付く。ほとんど俺が無視してて、喋り出したらまた変な事言われて、結局置き去りにして横山達の所へ行ってしまったんだ。

「あれ?!森がいない・・・。」
後から来た横山も気づいて言うが、俺が帰ったらしいと告げると、「いいなぁ、オレも早退したい!」と、ちょっと悔しそうに言った。

- 俺だって.........。

午後からの授業は、背中に感じる視線も無くて、違った意味で変な感じがした。
俺の背後に覆いかぶさるような圧を感じてきたから、それが無いと逆にすうすうして気色悪い。

- いやいやいや、何を言っているんだ俺。それが普通なんだからいいんだよ!
森の目力は重すぎて・・・・俺には受け止められないってのに。

今日の俺たちは、授業が終わると寄り道せずにまっすぐ帰る事にした。それに昨日のカラオケでお金も使ったし金欠状態。
夏休みにしたバイト代も、欲しいものを買ったらアッという間に底をついてしまった。
ひとりぶらぶらとバス停から歩いて帰る。途中、森の住むマンションが目に入り、少しだけ上の階を見た。三階の右から二つ目。
もちろん玄関は開くはずもなく、取り立てて珍しくもない同じようなドアが並んで見えるだけだった。

公園が見えてきて、そこから俺の自宅はすぐだったが、薄暗い木々の影から出てきた人物に思わず「おッ!!」と声が出る。背の高い男は、その手に紙袋を持っていて、それを俺に押し付ける様にすると「これ。母さんが持って行けって・・・。」という。

「..............、森、早退したんだろ?!何やってんの?」
俺は紙袋を受け取る前にそう言って、森の顔を下から見上げた。

「..............ケンちゃんを待ってた。学校では渡せないし、渡さないと母さん煩いし................。」

「で、なんでこれをくれるんだ?誕生日でも無いんだけど・・・。」
いきなり物を貰っても、受け取る理由が無いし戸惑っていると、森はゆっくり言った。

「ケンちゃんのお母さんに出会えてないからって・・・・・、母さんが言って・・・・・」

「へぇ、.........じゃあオフクロに渡しておくよ。ありがとうって言っておいて。」

「........、うん、じゃあ、ね。」

紙袋を俺の胸元にくっつけると、森はすぐに振り返って帰っていく。こちらを振り返るでもなく、ただまっすぐに来た道を戻って行った。

一体いつから此処にいたんだろう。
今日も、横山たちと遊んでいたら帰りは遅くなったのに・・・・
ずっと待つ気でいたんだろうか。


森の背中を見送って、俺は家の中に入るとオフクロのいる台所へと行く。昨日飲み会でしこたま呑んだオフクロは、今朝の弁当を作った後に二度寝をしたらしい。会社は休みだとか・・・。
手提げの中を見ると、「あらぁ~、森君のお母さんに出会いたかったわぁ~。こんなに高価なものを・・・・」と言いながらも、顔は本当に嬉しそうで。

頂き物のスモークサーモンとローストビーフを冷蔵庫に仕舞うと、一通の封筒を取り出して読み始めた。
森のオフクロがうちのオフクロに宛てた手紙。中身は教えてくれなかったけれど、なんとも言えない懐かしむ顔で何度も読み返していた。


その晩、風呂から出た俺にオフクロが言った。
「あたしが休みの日は、森くんを連れて来なさい。うちで一緒にご飯を食べるから。」

「え?・・・・・・」
驚いた俺が聞き直すが、「いいから。」と言われて頷くしかない。

「分かった・・・。森が来たいって言ったらな。」と、そんな風に返事をすると二階へ上がって行った。

- 手紙、何が書いてあったんだろう・・・・・。
ちょっと気になるが、ベッドの上で転がった俺はゆっくりと瞼を閉じた。





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