【妄想男子と恋のゆくえ。】23


 下校時刻になっても、朝からの雨は相変わらず止む気配が無い。
校庭には大きな水たまりが出来ていて、ぬかるんだ地面を避けながら校門へと向かった。

もちろん傘を忘れた俺は、今朝同様、森に入れて貰って帰り道を共に歩く。
「相々傘~ッ、ヒュ~ウ!!」
俺たちの背中には、横山と鳥居のバカげたひやかしの声が刺さる。まあ、男子校の’あるある’で、ちょっと仲良くしていると周りの奴らはひやかしてくるんだけど・・・。俺だって、他の奴がこの状態で歩くのを見たら、きっと横山たちと同じように煽っていただろう。

「お前ら、うるせぇな!!いい加減子供じみたひやかしは止めろ!恥ずかしいワ。」
俺が振り向きながら二人に言うが、隣の森は、というと全く気にしていない様子。相変わらず眉を寄せてバスの来る方角をじっと見ていた。

「森って・・・・・、」
「・・・え?」

振り向いて顔を見られたら、言葉に詰まった。こういうひやかしには動じないんだよな。っていうか、本心はちょっと喜んでいるんじゃないのか?耳朶が赤くなってるし.........。

俺は見ないふりをして、横山たちには取り合わない事にした。
「じゃあ、明日な~。用事あっても絶対来いよ!1時だから、忘れんなよな。」
「おう、分かったよ!じゃあな~。」「バイバ~イ。」

俺たちとは反対方向のバスに乗る横山たち。傘を上に持ち上げて別れを言うと、二人は歩いて行った。
バス停は同じ学校の生徒で埋め尽くされていて、傘を広げた分だけ居場所が狭くなる。
俺が身体を後ろにずらすと、チラッと森が目をやって傘を差しかけてくれた。

「あ、いいよ、お前が濡れるって!」
そう言って森の腕ごと傘を戻すが、「オレは頭入ってるから濡れないけど.......。」と言って尚も俺に傘を差しかける。

森の肩ぐらいの背丈だと、確かに傘の中には頭が入りきらない。だからって、俺に傾けたら自分の片方が濡れてしまうじゃないか。
なんだか、そんな風にされるのはくすぐったいっていうか、それこそ相々傘になってしまう。
森じゃないけど、俺まで赤くなりそうで、わざと視線を遠くに向けると平常心を保った。

暫くしてバスが来ると、俺たちは乗り込んで家のある停留所で降りる。そのまま森のマンションの前まで来ると、「この傘、差して行けばいいよ。うちには予備の傘が他にもあるし。」と言われ、「うん、じゃあ、借りておく。明日、俺が呼びに来るから、そん時に返すな?!」と答えた。

「うん、明日・・・・・。」
「・・・・じゃあ、バイバイ。」
「バイバイ。」

入口で別れると、俺は森の傘を借りてひとりで帰って行く。
さっきまで、森が握っていた柄の所がほんのり暖かくて、雨で冷えた身体には丁度いい温もりだった。
大きな森の存在が消えると、余計に雨音が強く感じられ、俺は足早に家を目指す。


- - - 
晩のうちに着ていく服を決めると、クローゼットの取っ手に引っ掛けておいた。
赤系のチェックのシャツに、下はブラックジーンズ。ラフな服装に身を包んだ俺は、土曜の午後に家を出ると森の傘を手にしてマンションへと向かった。

インターフォンを押して中から森が出てくると、「傘、ありがと。」と言って差し出すが、目の前の森の姿を見たら、ちょっと見惚れてしまう。
190センチの体格に、黒のTシャツとブラックジーンズを穿き、ボルドーのカーディガンを羽織っただけのあっさりしたファッションは、まるでこの間買ったファッション雑誌のモデルの様で....。

「..............、なんか、赤系と、ブラックジーンズって........、俺たち被ってるよな?!」
と、互いの服を見比べてちょっと苦笑。まるで示し合わせたかのようで、お揃い、とまではいかないがなんだか恥ずかしい。

「ちょっとさあ、そのカーデ、他の色とか無いのか?」と聞く俺に、「これでいい。」と言った森は、俺を追い立てると玄関のドアを閉めてしまった。

- ま、仕方がないか.....。


バスに揺られて学校の前を通り過ぎ、4つ目の停留所で降りると駅前の繁華街に着いた。
映画館やショッピングセンターが入ったビルの地下が、カラオケボックスやゲームセンターになっていて、遊ぶところはこんな所ぐらいしかない。大人になって酒でも飲めれば、もっと他に楽しい場所もあるんだろうけれど・・・。

「おーッ、お前らなに?!今日は’おそろ’で来たの~?マジかよー、二人でラブラブでどうすんだよ~ッ!」
俺と森の姿を見つけた鳥居は、すかさずそんな言葉を掛けて来て、隣の横山に至っては「それにしても、大小コンビでこの風体じゃ、オレら霞んじゃわないか~?」と嘆いた。

「バッカじゃねぇの?!」
森と少し離れた俺は、横山の隣に行くと言ってやる。なんだかこんな風に冷やかされるのが分かっていて、それでも森が着替えないから仕方がないと思ってきたけれど、ここに来て益々自分が恥ずかしくなった。

「ま、いいや。とにかく下で待ってるから、行こうか?!」
「ああ、」

横山たちに付いて、森と俺はちょっと離れ気味に歩いた。
カラオケボックスの入口で、小さなテーブルに集まる女子に目が行くと、鳥居が笑顔で声を掛ける。

「お待たせ~、こっちの連れも来たからさ、入ろっか?!」
そう言うと、一斉に四人の女の子がこちらを見た。みんな高校1年生なのか、どことなくあどけなさが残っている。

「あ・・・・・、はぁい。行きましょう・・・・。」
女子の中の代表的な娘がそう言うと、他の娘たちも「行こ、行こ。」と歩き出した。
最初の、この感じが一番恥ずかしくて照れるんだ。ちょっと俯き加減に付いて行く俺は、隣の森の顔を見上げた。

「................」
俺の予想では、いつもの様に眉間に深いシワを刻んでいる事だろうと思っていた。でも、見上げた森の顔は、無表情ではあるけど恐い目つきもなくなっていて、やっぱりメンズモデルのように見える。

そして、すでに向こうの女子の間では、誰が森の隣に座るかで静かな睨み合いが始まっていた。

- 俺を呼べって言ったの誰だよ・・・・・。

四人の視線は森ひとりに集まっていて、俺や横山、鳥居の三人は、まるでアウェーで戦う選手の様な気分になっていった。




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