境界線の果てには。(054)

ソファーに横たわる広斗の髪の毛を そっと直してやる真咲の姿に、ピンときた貴哉。
普通の友人なら、そこまではしない。
愛おしむ様な指先に込められた熱。それが友情を超えた何かであるという事は、直ぐに分かった。

「そういえば、お友達の名前聞いてないわね、どういう関係なの?」

「…中野っていいます。大学の同期生。」
当たり障りのない返事は、貴哉のイタズラ心を掻き立てる。
「フウン…。なら、ボクたちの関係は気にならないよね?」

そういいわざとらしく、広斗に近寄るとクッションに乗せた足をさする。その手が時々太股に伸びるので、真咲がハラハラしていると、クク、と笑いをこらえる貴哉。

「…チョットふざけないで下さい。俺と真咲は、友達以上なんで。」広斗の言葉で、貴哉も手を止めた。
「…以上、ね。」少しつまらない顔をしたが、ポンポンと膝を叩いて立ち上がる。

「多分、一過性の貧血状態になってるだけ。足上げて横になってたら、直ぐに直るわ。」
ソファーに置いたままのウィッグを手に取ると、リビングから出て行った。

真咲はすぐに広斗の顔を覗き、少しだけ眉を下げるが、顔色が戻ってきて安堵の表情をした。

-オレが知らなかった頃の広斗には、いろいろあったという事を聞いた。
事故のあと、女の子と二人になれなくて、自暴自棄になったらしいけど、直接かかわったあの人を目の当たりにしたら........
あの人と広斗が、セックスしたかと思うと..........

「オレ、今どんな顔してる?」
真咲が広斗に尋ねる。

「....は?....泣きそう......。」

「....だよな、ちょっと胸が痛いや。」

「なんで?」

「だって、お前があの人と.......って想像したらさ......。」

「.....ば~か、もう3年以上も前の話だ。俺と真咲がすれ違ってもいない頃の話。」

「そうなんだけど、.....」

自分でも女々しいと思う。それでも、広斗の肌に触れたのかと思うだけで、胸をかきむしられるようだった。

「もう、だいぶ良くなった。帰ろ?!」
ブランケットを戻して、ゆっくりと立ち上がると、真咲の腕に手を伸ばす。
「また、俺の肘、掴んで帰ってよ。倒れないようにさ.....。」

「うん、そうだな。」
二人は、部屋の外に出ると、「貴哉さ~ん」と、声をかけた。
奥の方で、「帰るならそのままでいいわよ。」と言う声。

広い玄関に行くと、エレベーターのボタンを押して
「ありがとうございました~」と、そろって叫んだ。





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