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『迷惑な落とし物。』16



 翌朝は、ここ何年かぶりの二日酔いに頭がガンガンと痛くて.....。
寝るときは平気だったっていうのに。それに、目が覚めたら正臣がこっちを向いて寝ていて。
思わず寝顔を間近で見てしまった。

切れ長の眼は、閉じると睫毛の生え際にうっすらと線が入っていて、ここにアイラインを引いたら綺麗だろうな、と思った。
頬の髭の剃り跡が、やけに疎らで脱毛でもしているのか、と思いつつじっと見てしまう。
スッと通った鼻筋。そこに指を伸ばして人差し指の腹でなぞりたい衝動にかられる。
でも、それは押し留まった。起こしてしまわないように、俺はそうっと布団から這い出ると、いつもの様に珈琲をセットする。

(頭痛薬、飲んでおこうかな......。でも、何か食べてからじゃないと。)

テーブルの上のバゲットを摘んで口に放り込むと、カウンターに肘をついて頭を抱える。
昨夜は、ひとまず俺がゲイだという事はバレなかった。あの店に入って暫くしたら、絶対に変だなって気づかれるだろう。
そこはなんとか大丈夫だったから安堵するが、大原さんだ。
あの人にはちゃんと話しておかなきゃ。

自分がカムアウトしているからって、俺も同じだと思わないでほしいヨ。


食器を流しに置いて、洗面所へ行き身支度を整えた。
パタパタと出かける準備をするが、こんなに煩くしているのに、正臣は起きる気配もない。

土曜日は会社が休みだと言っていた。家に戻ればいいものを。今日は何をするんだろうか................。

- まあ、俺が気にする事じゃないな。
そう呟くと、玄関からそっと出てドアにカギをする。

冷たい風に包まれて、思わず肩を竦めるとマフラーを更に巻き付けた。二重じゃ利かないぐらいに寒くて.....。
顔の半分が隠れる程、纏ったマフラーを手で押さえると、足早に店へと向かう。


枯葉と競争するみたいに、地面を蹴りながら歩くと、狭い通路を抜けて裏口へと入って行った。

「おはようございまーす。」
ドアを開けて、顔があった先輩に挨拶をする。

「あ、おはよう。風、メッチャ強いねぇ。」
ひとつ上の先輩が、マグカップに入ったコーヒーを飲みながら俺に言った。

「本当に。雪とか降らないですかね?!雲行きが怪しい感じですよ。」
俺は、コートとマフラーをロッカーに入れながら先輩の顔を見る。頭痛は少し治まり、俺もにこやかに微笑むとそう言って返した。

「降ると困るよねぇ、お客さん可哀そう。」
窓から外を眺めると、遠く西の空に目をやる。土曜の朝は、通勤する人も少なくて、この店の前は静かなものだった。

「おっはよー」

元気にドアを開け放って、入ってきたのは大原さんだ。

おはようございまーす、と口々に挨拶を交わしながら俺の前にやってくる。
大原さんの顔をじっと見ているのに気付いたのか、俺の方を向くとニッコリ笑った。

「ハルヨシ君おはよう。昨夜はちゃんと帰れた?お迎えに来てくれたのかな?!」
と、悪びれる事もなくそう云われ、ちょっとムカついたがここで昨夜の事を云うのもなんだし.........。

二人きりになってから話そうと、「まあ、大丈夫でした。」とだけ云っておく。

大原さんが、口角をあげて目を細めるが、その瞳の奥に妖しい光があるのを俺はまだ知らなかった。



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