境界線の果てには。(064)




「……さん、………お客さん!大丈夫ですか?」
「…あ、……はい…。」

座り込んだ広斗のところにやってきた店員が、肩に手を置いて聞いてくるので気を取り直して返事をした。

立ち上がって会計を済ませるが、さてこれからどうしたらいいのか。
とりあえずこの食品は、持ち帰りということだ。届ける相手が居ないんだから…。



気が付けば、広斗は末永クリニックの前に来ていた。真咲が勝手に予約を入れてくれたから、仕方がない。

中に入ると、受付に短髪の貴哉さん。
俺の顔を見ると、ウィンクするみたいに片目で合図をして直ぐに澄まし顔で挨拶をした。
「こんにちは。」
そういって診察券を受け取ると、静かに業務をこなす。


順番がきて俺は末永先生の前に座る。

「いやァ、驚いたよ。素敵な友達がいて。」

いきなり言われて、こっちが驚く。真咲の話題から始める気か………。
しかも今、最もレアな話題。俺、あいつに捨てられたらしい。

「どうした…?」
末永先生の言葉で、俺の目から涙がこぼれた。
「…広斗?」

俺は自分の膝に置いた手をぎゅッと握り、ただ無言で肩を震わせていた。
声も上げず、ただ無言で……。








ぼんやりと人の声が聞こえてくる。

目を開けると、綺麗な木目の天井が見えて、またもや意識が飛んだのかと思った。

「目が覚めた?」

ふいに頭の上から話かけられて、首を上に反らす。そこには先生の顔。
少しだけ心配そうに見ているが、口元には安堵の笑みが浮かぶ。

「.....すいません。俺、.....。」
「いいよ気にしなくて。.......また貧血みたいだね?ちゃんと食べてる?」

そう言われ、昨日はぼんやりするばかりで、食事をとっていなかった事に気づく。
今日は午前中の授業だったから、昼飯を真咲の所で食べようとコンビニへ行ったんだ。
あれ?今何時?...........俺の予約は5時だったはずなのに、俺昼過ぎからなにやってたんだろう................。

「................食べ忘れてた...........みたいです。」
自分の顔に手を置くと、そのままごしごしと擦って気合を入れようとした。全く恥ずかしい・・・・・。

「・・・広斗が受け入れる側になるとはね?!・・・カレのせいか。」
「ぇ?」
突然何を言い出すのかと思ったら.......。
壁に掛かった時計の針が7時25分を指していたので、もう診療時間が終わった事は分かった。
それでも、ここでそういう話題に触れるなんて・・・と思っていたら、先生の細い指が俺の頬をなぞる。

寝ている俺の頭の上で、俺を見下ろす先生。ここは飛び起きるべきなのか?
でも体は動かなかった。物凄い疲労感で、もうどうにでもしてくれという気持ちになる。

上からゆっくりと、俺の顔目がけて降りてくる先生の唇をじっと見つめていた。が、先生は俺のおでこにちゅっ、としただけで顔を上げた。一瞬目を閉じた俺だけど、内心はほっとする。
真咲に、俺と先生とは何もないって言ったから、そこはウソになると困る・・・・って、もう終わったかもしれないのに、な。
別に真咲には関係ない話になるかもしれないのに・・・・。

「僕がこの家でご馳走してもいいんだけど、それはちょっとマズイ事になりそうだし、帰れそうならゆっくり自宅に帰ってカレに介抱してもらうんだね。」
そう言って、俺の躰を抱き起すと、別室にいたらしい貴哉さんに声をかけた。
貴哉さんは、とくに心配していなさそうで、俺の鞄やらコンビニの袋やらを渡してくれた。

「もっと、栄養のあるもの食べなさいよ?コンビニ弁当ばっかりじゃだめ!」
それだけは、きつく言われる。

貴哉さんの、きつい様で本当は優しい性格がうかがえた。

-これが、華奢で綺麗なままの貴哉さんだったら、俺、なびいちゃうかもな・・・・・・
なんて、バカなことを思ったのは、ちょっと弱っているから.....。





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