『迷惑な落とし物。』番外編「お買い物」その1


 たまに聞く事があった。
夫婦の間に流れる空気が、ものすごく重苦しくて、家出したくなるって話。
けど、結局はそれも出来なくて、買い物で発散したり友人とランチをしたり。女性客が多い美容室では、そう言った話が飛び交う事もあって、俺は他人事だと思ってぼんやりと聞いていた。

_____昨日の事だ。
引っ越しも終わり、ダブルベッドは俺の所から運んだものを使うという事になっていて、無事設置も済んだ。
で、リビングで寛ぐためにソファーを買おうと正臣が云いだして。

「正臣の、その一人掛けの椅子が大きいんだから、ソファーは要らないんじゃないか?狭くなっちゃうよ。」
俺は、高級そうな椅子を指差すと云ったが、正臣は「これは一人用だけど、二人でイチャイチャする時はやっぱりソファーだろう」というので、少し遠出をして大型の家具店に行く事となった。

今までそういう店には縁がなくて、前の部屋もベッドとテレビ以外は殆ど物がない状態だったから、本当は少し嬉しかったんだ。家具を見るなんて、友達と行くこともないし、ベッドを買ったのも通販で購入したものだったから。

引っ越しで二日間の休みをもらって、昨日は疲れてすぐに眠ってしまったが、今日は朝から正臣と家具屋巡りをしようという事になっていた。

リビングのどの辺りに置くか、一応部屋の寸法を測った俺は、それを正臣に渡すと自分の支度を始める。

毎朝の事だけど、俺の髪の毛は少し癖があって、それをどうにかこうにかまとめるのには時間が掛かる。下手にムースやワックスを使うと、余計に一部分が浮いたりして大変。

正臣は、自分がストレートのサラサラヘアだから分からないだろうけど、すっかり出掛ける用意をして待っていた。
「ハルミぃ、まだ?.........もう、ちょっとぐらい跳ねてたって可愛いんだから、気にすんなって。」
洗面所で鏡とにらめっこの俺に向かって云う。

「可愛い、とか____お前、外で絶対にそれ言うなよ?!後少しだから、待って」

一応後ろ姿もチェックすると、洗面所から出た俺は「お待たせ。」と言って正臣と玄関に行った。
カギは、合鍵を持つ俺が戸締りをする。
正臣はいつもの様にポケットに財布を入れただけの軽装。バッグは持ち歩かないらしい。

「携帯は?」
俺が訊くと、「ハルミが持ってるからいいじゃん。」という。
まあ、特に連絡を待つ相手もいないし、休日だし。いいかと思って、俺は並んで歩きだした。

日曜日に電車に乗って二人で出掛けるのは、大人になってからは初めてで。
高校生の頃を思い出すと、車窓から外を眺めている正臣の横顔をじっと見つめてしまった。
休日だから人も多くて、どうしたって肩が触れてしまう。電車の振動に身を任せると、時折触れる肩の他に、手が腰に当たる様な気がした。

「..............」

無言で正臣の方を見上げるが、特に俺の顔を見る事もなく。
仕方がないからそのままにしていると、なんだか........
確実に誰かの手が俺の腰を撫でている気がしてならない。それに、じっとしていたらだんだんその手は前の方に回ってくるようで。

「...............」

俺の頭の中に、何故か’痴漢’という言葉が浮かんでしまうと、男なのにどうして?!という疑問も生まれる。
____まさか、ねぇ

ドキドキしながらも、ここで確かめる訳にもいかず黙ってやり過ごすしかない。
次の駅で降りるから、それまではガマンしようと思い、俺はじっと目を閉じた。
触られる感触も、微妙な強さでそれがわざとなのか、たまたま手の位置がそうなるのか分からなかった。

駅に着き、他の乗客が降り出すと俺も慌てて後に付く。
正臣の存在を横目で確かめながら、駅のホームに降り立つと辺りを見廻した。誰か、俺を見ている人がいるんじゃないかと気になって、キョロキョロするが誰もそんな人はいなくて。

「ハルミ、なにやってんだ?早く行くぞ。」
正臣はそう云うと階段を降りて行く。
「あ、........うん。」
仕方なく後に付いて行く俺。改札口を抜けて右に折れると広い通りに出る。そこの少し先に大きな家具屋が見えてくると、さっきの変な感触は消えて、少しだけウキウキしてきた。

「ソファーも、だけどテレビを置く台も欲しいよな。床に置いたまんまじゃ見ずらいし。」
正臣は歩きながらそう言った。
「お前のテレビ、デカすぎるんだよ。アレを置く台っていったら大きな棚を買わないと.................」
そう言って、正臣を見るが「ついでに買っちゃおうか、もうすぐボーナスの時期だしさ。」という。

まあ、俺と正臣が二人で来れるのはいつになるか分からないし、今日買ってしまってもいいのかもしれない。
「あっ、そうだ。さっきリビングの寸法測ったの、あの紙何処にしまった?」

「.................」

俺の言葉で、正臣が急に無言になると尻のポケットに手をやった。
財布を取り出してその中を確認しているが、どうもみつからない様で。

「ヤベぇ、テーブルの上におきっぱにしてきた。」

「は?.........なんで?..........せっかく測ったのに!あれが無いとどの大きさのを買えばいいのか分からないだろ?!」

もう、目の前は家具屋の入口。ここへ入って、俺と正臣でソファーを選べばいいだけだった。
なのに................。

「まあいいって、適当で。そんなに大きさなんか変わんないって。」
そう言って正臣は店内に足を踏み入れる。

「............ホントかよ?!」
口を尖らせながら、俺もその後に付いて行ったが、なんとなく胸騒ぎがする。
あのデカイ椅子があるせいで、リビングには余裕がない。せっかく測って大きさを確かめたっていうのに.........。
正臣の行き当たりばったりな性分が、こういう所にも影響を及ぼすって.........。

そして、数十分後には否応なしに二人の間の空気は淀んでいった。
結局、色々進められても展示されているスペースが広くて、部屋の中に納まるのかさえ分からなくて。
俺たちは何も買わずに店を出る事になった。


迷惑な落とし物


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こんにちは
早速二人のお引越しが済んで、ラブラブな日々を過ごそう・・・・という矢先。
今までは、目を瞑っていた相手の事が気になりだしたり。
せっかくのお買い物なのに、おこなハルミくんを正臣はどうやってフォローするのでしょうか?!
イヤですよねー、楽しいはずのデートが。
・・・・・どうなる事やら、です。

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