君は腕の中・・・ 16.
「有難うございましたぁー」
俺の声が、人通りの少ない路地裏に響く。
繁華街の裏手にある小さな飲み屋に配達を済ませると、昼までの納品は終わり。
荷台のケースに回収した空き瓶を仕舞う斗真くんに「腹減っただろ?!」と声を掛ける。
「......あ、はい。」
「じゃあ、飯食いに行こうか。っていってもファミレスだけどな。」
そんなに高価な食事はご馳走出来ないが、ファミレスなら何でも好きな物を注文できるから悩まなくていいんだ。
「僕、ファミレスは好きですよ。友達ともよく行きますし、課題をやったりするのも落ち着けていいんですよね。」
斗真くんは額の汗を拳で拭うとそう云った。
都会も田舎も、ファミレスは変わらないから、入りやすいっていうか安心して食事が出来る。
彼女とのデートで行ったイタリア料理の店なんかは、ちょっと緊張して苦手だった。
「俺も好きだな。気取らなくていいし、腹いっぱい食えるから。」
「そうですよね!」
斗真くんと二人、にこやかに話しながらも車のハンドルを切ると駐車場が広めのファミレスに入った。
昼時ではあるが、平日という事もあってすぐに4人掛けのテーブルに通される。
早速もらったメニューを広げると「何食べたい?」と訊いた。
料理を確かめながら、メニューをめくっていく斗真くんは「ん~、」と云って迷っている様で。
その顔を見ながら、ついニヤつく俺だった。
見れば、人差し指を何故か顎に突き刺してメニューをガン見している斗真くん。
自分で気づいていないのか、その表情はとてつもなくカワイイ。
まるでアイドルの女の子が、かわい子ぶってするみたいなポーズを俺の目の前でする男の子。
これは女子の目から見ても可愛いと云えるんじゃないのかな........。
「じゃあ、僕はこれで!」
「あ、.....うん。」
見惚れていた俺は、一瞬間があいて慌てて自分の注文するものを選ぶ。
料理が来る間に、斗真くんが住んでいる所を聞いたり、功とどんな話をしているのか聞かされて、「へぇ~、」と頷くばかりの俺だったが、なんだか新鮮な気持ちになる。
「お待たせいたしました」
料理が運ばれてくると、斗真くんは嬉しそうにフォークを掴んで手にした。
「いただきまーす」
そう言ってサイコロステーキを口元に運ぶ。
それを向かいで眺める俺は、ひとり至福の時を過ごす........と思っていたら、ふいに「貴也くん?」と背中に声を掛けられる。
「.....え?」
振り向いて声の主を確かめると、そこにいたのは高校で同じクラスだった女子。名前は確か小野田、とかいったかな.......。
「やぁだ~、こんな所で会うなんて。帰って来てるって聞いてはいたんだけど、同窓会来なかったでしょ?!」
早口でそういうと、俺の顔をしみじみと見てくる。
「あ、.........うん、色々忙しくて。今度は行くよ。」
そんな気の無い返事をすると、「絶対来てよー。千里とは仲良くやってる?」なんて、おかしな質問をしてきた。
「............普通、かなー。」
「あら、貴也くんが戻って来たって聞いて、千里とあの店を継ぐのかって噂してたんだけど!違うの?」
「...........え?............まさか。」
「なぁ~んだ、違うのー?やぁだ~、.............あ、じゃあね、また今度。同窓会でね!」
「.......うん、どうも........また...........」
やっと静かになると、自分の料理に箸をつける。
「同級生ですか?.........元気いい人ですね。」
斗真くんが笑いながらいうが、俺は思わず変な汗が出そうになった。
地元だし、同級生に出会う確率は高いが、この一年は殆ど出会う事がなかった。
千里は近所だし、しょっちゅう顔を見ている気がする。でも、未だに俺と千里の事を誤解しているヤツがいるなんて。
そんな話をした事もないし、全くおかしなものだ。
「千里さんと噂されていたんですね?!」
半分ほど肉を食べてしまうと、斗真くんは俺の顔を覗き込んで訊く。
「まあ、昔の事だけど.........。この土地に来て最初に仲良くなったのが千里だったから。家も近所だと登下校も一緒になるからなあ。」
昔の事を思い出しながら斗真くんに言えば、「功も最初に仲良くなったのは千里さんだったって云ってました。」と云い微笑んだ。
「ああ、そうだなー。」
料理を摘んで口に頬張ると、昔の事が蘇る。
小学生の功のやんちゃに手を焼いて、俺は遠くで見守っていただけだったが、千里は兎に角同じ目線で怒ったり笑ったりしていた。
この二人の方が姉弟みたいだと、どこか冷めた目で見ていた俺は、この土地に馴染めないままだったのかもしれない。
すんなり入りこめている功に、どこかヤキモチみたいな感情を募らせていたのかも。
だから未だにわだかまりを抱えている。
「功が話していた貴也さんの彼女って人は、もういいんですか?」
「............ああ、済んだ話だから。」
「じゃあ、新しいカノジョを作るとか?」
「...........、いや、全くその気はないなぁ。結婚できるとも思えないし。」
斗真くん相手に何の相談かと思うが、そんな話の流れで俺はつい「斗真くんと功は........。」と言葉が出かかってしまい口をつぐんだ。
こんな場所で二人の関係を訊くなんて、俺も相当可笑しくなってるな。
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