君は腕の中・・・ 74
三階の台所へ行くと、冷蔵庫からお茶を出してコップに注いだ。
そのコップに指をかけた所で、「 あ、お帰り。ちゃんとお昼食べたの? 」とオフクロが話しかけてきて、「 ああ、ちゃんと食ったよ。 」と俺も普通に返事をする。
でも、内心はドキドキ。斗真くんと二人、ホテルへ行ったなんて事はバレないにしても、隠し事やウソは苦手だった。
変な声になってなきゃいいけど.............。
「 明日、ちーちゃんがケーキを持って来てくれるって。功と斗真くんが頼んだらしいわ。ちーちゃんも来てくれるんだね。 」
「 え、そうなんだ。.........それは聞いてなかった。 」
てっきり二人で買い出しにでも行くのかと思いきや。千里に頼んだって訳か。
まあ、女子の方がケーキの種類とか知っていそうだし、前にも持って来てくれた事があった。美味しい店でもあるのかな。
俺はオフクロに背を向けてゴクゴクとお茶を飲み干すと、「 なんでもいいや。美味しいケーキが食えるなら、千里でも誰でも来てくれて構わないさ。 」そう云ってシンクにコップを置く。
「 なによー、ちーちゃんが来てくれて嬉しくないの?お母さんは嬉しいんだけどなー。昔から知っているし、とっても気立てのいい娘だもん。貴也のお嫁ちゃん候補ナンバーワンなのにぃ。 」
いつものオフクロの口癖みたいなもので、やたら俺と千里をくっつけようとするんだ。
気持ちはわかるけど、俺たちにそんな気はないんだからそろそろ諦めてくれたらいいのに..........。
「 オフクロ、悪いな。もう何度も云ってるけど、アイツも俺もそんな気は全くないから。そんなに千里を気に入ってるなら功の嫁さんになってもらったら?! 功だって慕ってるし、丁度いいんじゃないか? 」
「 え~、ちょっと、なに云ってんの。六つも違うんだよ?姉さん女房ったって...........上すぎ。それに斗真くんは? 」
「 は?................ああ、それはオフクロの勘違いだから。あいつらはホントに友達。っていうか親友みたいだよ。 」
「 ホントに?...........ならいいけど............。あたしは人の恋路に文句は言えないけどさ、やっぱり同性愛は.........ねぇ?! 」
「....................... 」
これが一般的な考え方なんだろうな。そりゃあ俺だって自分の身に降りかかる迄は考えた事もなかった。でも、心の何処かでは違和感でいっぱいだったから。
斗真くんと出会わなければ知り得なかったかもしれない。だからこそ大切にしたい。まだ始まったばかりなのに躓いてしまっているが.............。
「 夕飯まで帳簿の入力しているから。今日はもう配達終わりだし、店番は功に任せてる。 」
「 分かった。食事の用意が出来たら呼ぶから。 」
一旦自分の部屋に戻ってからTシャツを着替えて下の店に降りて行った。
功と斗真くんは相変わらず何か話し込んでいて、俺には視線を投げただけ。話の内容が気になりつつも3帖間の事務所へ行くと机の上のパソコンを立ち上げた。
ざっと仕舞ったままの伝票を広げると、エクセルで作った売り上げ台帳に打ち込んでいく。
指の動きは昔に比べると遅くなった。
前の仕事量とは比べ物にならない。深夜近くまで会社に残りこうして打ち込み作業を終えると、それだけで身体も神経もクタクタ。
今は身体を使うし力仕事で腰も痛くなるけれど、それでも神経がクタクタになる事はない。実家っていう事もあるし、気を使う人がいる訳じゃなかった。
斗真くんに訊かれた。広告の仕事に未練はないかって。
無いと云えば嘘っぽいか.........。でも、やっぱり俺にはこっちの方が性に合っている気がする。
一枚一枚品数と単価をチェックしながらなんとか打ち込みが終わると、店にいた功がやって来た。
「 ねえ、ちょっといい? 」
「 なに? 」
普段と違う声色に背筋がぞわっとする。功が変な声で俺に声を掛けるなんて、未だかつてない。
何か恐ろしい企みでもあるんじゃないかと思った。
「 あのさ、明日ちーちゃん呼んだから。 」
「 ああ、さっきオフクロに聞いた。別に俺はどうでもいいけど、また飲み会でもしたいなら俺はダシにされてもいいよ。 」
理由を付けて飲んで盛り上がろうって事ならそれでもいいと、そう思って功に云ったが、「 や、別に飲み会がしたい訳じゃなくてさ......。 」と、やけに口が重くて。
「 なんだよ、何か云いたい事があるなら云え。変な頼み事は嫌だけど.....。 」
仕方がないから振り向いて功の顔を見直す俺は、その表情がやけに真面目なのを不思議に思った。
こんな顔、見た事ないな........................。
「 今夜、タカにぃの部屋に行くから。そん時話す。 」
それだけを云うと、功は又店の方に戻って行った。
____ いったい何を云いたい?
なんとなく斗真くんに関係している事の様な気がすると、俺の胸はズーンと重しを乗せられたように苦しくなった。
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