『曇天の月』 003


 - ガララララツ- 

「おーい、オヤジいるぅ~?」
建てつけの悪い引き戸を開けながら、玄関から叫ぶと中から「はーい」という声。
しばらく待っているが、全く顔を見せないので仕方なく上がろうと靴を脱ぎかけると
「おおー、大変だったな。」

屈んだ俺の頭上から、聞こえてきた声にムッとした。

「オヤジ、腰の具合はどうなんだよ。債権者説明会、俺なんかが頭下げたってなんの値打ちもねえだろ?」
言いながらオヤジの横をすり抜けると、居間の方へと行く。

「腰は昨日注射打ってもらったから、なんとか大丈夫だ。弁護士先生とお前の顔が揃ってりゃ誰も文句言えないからな。」

- これだ・・・この人任せの能天気さがこんな事態を引き起こしたってのに、まだ言ってやがる........。

「これから先は、返済とか取引先の仕事の事とか、やる事いっぱいあるんだからさ、ちゃんとしてくれよな?」

「ああ、分かってるよ。まあ、今日は晩飯でも食ってけや。実家があるのに何で一人暮らししてるんだか・・・映見が寂しがってるぞ。」

オヤジの言葉を聞きながら、未だリビングに置かれたこたつに足を入れると、そのままごろりと横になった。


本当は、司と一緒に住むつもりだったんだ。アイツは実家が長野で、大学から一人暮らしをしていたから。
俺は地元で、大学通いながら実家の手伝いもしていたからここにいたんだけど、卒業したら海外に支社のある企業へ入るつもりだった。けど、そうなると、今度いつ戻って来られるか分からない。

 あの頃の俺たちは、多分のぼせ上がってたんだと思う。

女友達はいても、男と女の関係にはなれない俺は、そういう店やネットで相手を探すしかなくて.....。
まさか大学生最後の年に、同じ大学の奴とネットで知り合うなんて思っても見なかった。
しかも、同じゼミで何度もしゃべったことのあるヤツって。ホント不思議だったよ。

前からお互いの存在は分かっていたけど、まさか同じゲイだとは思わなくて.....。
だから一気に火が点いたっていうか、俺は決まってた商社への就職を取りやめたんだ。

- 若かったな~俺 -



「ちょっと、おにい、邪魔ッ。」
「イテ・・・」

人が回想してるってのに、こたつからはみ出した俺の足を蹴飛ばしていくのは、妹の映見だった。

「痛ぇな・・・蹴るなよ。」
仕方なくからだを起こして座りなおす。

「今日は司さん一緒じゃないんだ?」
映見がこたつのテーブルを拭きながら聞いてくるが、コイツが司に興味を持っているのは分かってる。
唯一、俺の性癖を知っていて、司との事も知っている身内だからな。

「ああ、本社の営業が来るってんで、飲みだってさ。」

「へえ、おにい、捨てられたね?」
「はッ・・あ?・・・・てめッふざけんなよ?! なんで捨てられるんだよ!」

「だって、かたやつぶれかけ工場の3代目。かたや本社営業でバリバリのやり手。勝ち目ないじゃん?」

「なんてずけずけと、人の傷に塩塗るような事をいうヤツなんだ。妹とは思えないな。」
俺が睨みをきかせて言うが、全く知らん顔だ。

こんな憎まれ口を言うようになったのも、オヤジがダメ人間だからだと思う。
まあ、コイツも嫁の貰い手がないだろうな。なんて、思う俺もたいがい酷い兄きだけどな?




 
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