『曇天の月』 004


コタツの上でグツグツ煮える鍋をつつきながら、俺はオヤジと妹の映見を見る。
俺たちの明日が心配な状況だってのに、クソ熱い鍋料理を頬張りながら普通の家庭の晩御飯風景になっていた。

「おにい、野菜しっかり食べなさいよ?!一人だと肉ばっかり食べてるんだから。」
映見が白菜を追加で入れてくれるが、俺は基本肉食だから、鍋はあんまりそそられ無いんだよな。まあそれでも、こうして家族で一つの鍋をつつくってのがいいんだろうけど...。

「映見、お前彼氏とかいねえの?24歳なのに・・・」
「は、あ?・・・ケンカ売ってんの?失礼な事言わないでよね。あたしの目に叶う人がいないってだけよ。」

家族団らんの話題をチラっと言ってみただけなのに、すごい剣幕で睨まれた。
やっぱり年頃の娘に、こんな話題はNGだったな。

「まあ、お前顔は可愛いんだから、そのうちモテモテになって困るほど男が寄って来るさ。」
オヤジがしらたきをすすりながら映見に言った。が、映見は無視して自分の食器を持って台所に行ってしまった。

残された俺と親父は、二人で顔を見合わせるが、言葉は発しなかった。
つくづくオヤジの空気の読めなさに、頭を抱える俺。

映見が高校生の時オフクロが亡くなって、以来俺たちは映見に家事をまかせっきりだった。
友達がデートだなんだと言っている時に、夕飯のおかずの心配をさせていたんだもんな・・・・。
今思えば可哀そうな事をしたとは思うよ。

大学生の俺は家の手伝いもしていたけれど、司との事もあって家にはあまりいなかった。
付き合いだしてからは、司のアパートに入り浸ってて、週に一度ぐらいしかここで飯も食わなくて......。
ああぁ、やっぱりひどい兄きだ・・・・・

「そういや、豊臣商事、お前の親友がいるんだよな?」

「え?・・・ああ、矢野 司 な。俺の大学からのダチ。」
オヤジには親友と言ってあった。ここにも何度か来たことはあったが、オヤジは俺の性癖を知らないから未だに俺たちは親友だと思ってるんだ。

「なに?豊臣商事が何か?」

「あそこの会長にお願いして、金の融通きかせてもらえんかな?」

「え・・・?司に話せってこと?・・・」

「おお、何ならこの工場もらってくれねえかな?」
茶碗をかたずけ乍らあっさり言うオヤジの顔をみて、俺は怒りが込み上げてくる。

何年か前の好景気にうつつをぬかして、機械の入れ替えをする為に銀行から多額の借金をした。
それから、取引先への接待だかなんだか知らねえが、夜な夜な飲み歩いていたオヤジ。
挙句の果てに生産調整だとか言われて、借金返す元手もない程売り上げが落ちて、今に至ってるのに......。

「オヤジがそういう能天気な事言ってるから、銀行も借金の取り立てに厳しい事言ってくるんだよ。ちゃんと仕事取って続けていけるのか不安に思われてるんだろ?しっかりしてくれよな?!」

「ああ、分かってるって・・・そうマジに怒るな。」
俺の茶碗を手にすると、台拭きを俺に投げてよこした。
それを受け取って、テーブルを拭きながら、なんともやるせない気持ちが込みあがってくる。

昔から、坊ちゃん育ちのオヤジには、2代目の役は重すぎたんだ。周りに支えてくれる人がいるうちは良かったけど、みんな定年で企業を去り、ひとりで何もできないオヤジが取り残されて。
人との付き合いだけで仕事がもらえる時代はとっくに終わってるのに・・・・

そういう姿を見てきたから、俺は確実に自分を磨ける仕事に就くはずだった。グローバルな時代で、海外で働ける企業に内定してたっていうのに・・・・俺も、結局は能天気に司といる方を選んでしまった。

つくづく能天気な親子だな。


----ぁあああ、司に会いてぇぇぇ-----!






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