『曇天の月』 006


 ‐‐‐‐‐‐‐‐ダ、ダツ、ダツ、ダツ、ダツ、ダツ‐‐‐‐‐

古びた工場の中で、テンポのいい音を響かせて織機は動いていた。
数年前に借金をして買い換えた機械も、動かなければただの鉄の塊だ。かろうじて続いた商売があったから、今もこうして動かせているが、一時はここにある物はすべてメーカーに引き上げられるのかと焦った。

取引先に弁護士からの通達が届くと、うちの事務所では朝からひっきりなしに電話が鳴った。
毎日対応に追われ、覚悟はしていたけれど、疲労感はハンパない。とても司と会う気にもなれず、まるひと月は電話のみ。
アイツもわかってくれてる。俺にいろいろ言いたいんだろうけど、言えば喧嘩になるからな・・・・

縦の糸に横糸が織り込まれ、徐々に反物が出来上がる。いつも目にしているのに、案外気づかず使われているものが、こんな風に作られている。ホントに地味な商売だよな・・・・
反物に目を通しながら、ぼんやり考えていると、工場の入口から誰かが入って来る。

中は音がうるさくて、声が聞き取りにくいから、俺は外へと移動した。
やって来たのは、司だった。
営業のついでに、携帯の着信が入っていたから来てみたらしい。

「朝から一体なんの用事かと思ってさぁ・・・仕事の事なら会社の誰かに言うだろうけど、プライベートな事なら直接聞こうと思って。」
司は、濃紺のスーツに身を包み、綺麗なラインの肩を片方だけ上げて言った。

フワフワの髪は、ちゃんとムースでセットされ、やっぱり今日もイケメンだった。なんて、のろけてる場合じゃない。俺は、朝出会ったあの中谷さんと言う人の話をした。
どこかの会社が動き出したという事を伝えるが、司はあまり驚きもしない。

「まあ、そういう話が出るのは分かってることだよ?これだけの新しい機械があるんだ、おまけに仕事つき。」
「おい、そんなの・・・・司は何にも言ってなかったじゃないか。」

俺は、少々カチンときた。当然のように話すが、わかっていたんなら俺に知らせろっての!
人の気も知らないで、司は今日も冷静に
「言ったところで、涼介はテンパってて話にならなかったと思うよ?!まあ、今だから少し冷静になれるんじゃないのか?」

司に言われて納得するしかない。確かにちょっと前までは、いろんな事が降りかかってきてパニクってたから・・・

俺の顔を見ながら、ニヤっと笑う司の顔が、少しだけ憎らしい。次会う時は絶対啼かせてやるからな・・・
頭の片隅で、司の裸を思い出すと、俺の口元もニヤリと上がった。






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