『曇天の月』 009


 - - - ヤバイ、と思った。
金髪の髪はフワフワで、右の耳だけにピアスをつけ、ほっそりした身体に薄くついた筋肉。
二重の目尻は、わずかに下がり気味で、人懐っこい感じのオトコ。ドンピシャで俺の好みのタイプだ。

「なんで今まで会わなかったんだろう・・・ボク、おーはらって言います。」
すんなり俺の横に座るとこちらを見て言った。

「俺はリョウスケ。最近はここから遠ざかってたから。」
そういうと、ママの方を見た。
別の客に愛想を振りまきながらも、しっかりこっちを見てやがる。ヘタな真似したら司にチクられるからなぁ・・・・
慎重に、おーはらの顔をくまなくチェックして目だけに焼き付ける。

「ちょっと聞こえたんだけど・・・ひょっとして結婚してんの?・・・ヨメがどうとかって・・・」
顎の前で細長い指を交差させて言うからじっと見てしまった。
「ヨメ?・・・ああ・・・ウソ。そんなのいないし。俺ひとりもんだよ。おーはらくんは?」

「ボクは、う~んとネ、いるようないないような・・・・まあ、いいじゃない、飲もうよ。」
持ってきたグラスを俺の飲みかけにコツンと当てるとカンパイ、と言って口に含む。
俺もニヤリとしながらグラスの残りを飲み干した。

「これから用事あるの?」
下がった目尻をさらに下げて聞いてくる。すごくカワイイ男。ホント、今までどこに居たんだよ。と思いながら俺の鼻の下が伸びる。

「別に、何もないけどさ・・・・なんで?」
「ううん、特には・・・・聞いただけ。」

ふふふ、こういうやり取りも久しぶりで、昔は決まった相手もいなくて、適当に気の合う奴とその日のうちに。なんて事もあったな。
俺が懐かしむように微笑んでいると、「早く帰んなさいよ!!」と、奥の方からママに水をさされ、俺は肩をすくめて笑う。

「なんだ、帰っちゃうの?これから色々話したかったのに・・・」
ちょっと口を尖らせて言うから、益々可愛い。
- あ~ダメダメ。俺には司が.............

「また今度ね?おーはらくんの顔はもうしっかり記憶したから、どこかであったら声かけるよ。いい?」

「うん、いいよ。あっ、そうだ・・・コレ。」
そう言ってポケットから名刺を取り出すと、俺に差し出した。

「え?・・・・美容師?」
「うん、そう。そこに居るから、よかったら指名してよ。リョウスケさんの髪の毛素直そうでカットしやすそうだもんね。ヘアモデルでもいいよ?!タダでカットしたげる。」

「ああ、ありがと・・・じゃあ、またな」
「バイバイ。」

俺が飲み代をカウンターに置いてドアに向かうまで、おーはらくんは俺の背中に手を振っていた。
ドアが閉まるとき、チラッと目が合って、俺は久々にキュンってなってしまった。
これは決して”浮気”ではない。ただの目の保養だ・・・・


ウキウキした気分で駅に向かうと、丁度目の前にタクシーが止まって人が降りてくる。
俺はそのタクシーを捕まえようと人が降りるのを待つが、一人目が降りたあと次に降りてくる人がいるらしく待っていた。

「あ..............」
降りてきた人を見て思わず声が出る。

「涼介・・・」
「司・・・・」

「え、司の知り合いか?」

先に降りた男が言った言葉で、俺はカチンときた。
”ツカサ”と呼び捨てにする奴って・・・仕事相手じゃないもんな。
- 誰、コイツ。

「あーっと、同級生。・・・涼介、またな!」

司が、俺に手をかざすとその男の背中をポンポンとしながら歩いて行く。
- は?・・・・・・・・・・・・・・は?・・・・・・・・・・・・・・・ぁ?


しばし呆然と二人の背中を見ていたら、タクシーの運転手に急かされて、仕方なく俺は車に乗り込むと行き先を告げた。

- なに?アイツ・・・・仕事忙しいから今日はパスって言ってたよな・・・・・!!

さっきまでのウキウキした気分はどっかへ吹っ飛んで、今の俺はすごーく暗い沼の淵に居た。
見るからに高そうなスーツを着こなした、ちょっと年上のリーマンが、ただの仕事相手じゃないってぐらいは分かる。

車の窓越しに流れるネオンを見ていたが、俺の心はざわざわと波立っていた。









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