『曇天の月』 012


 慌てた。
こんなに慌てたのは初めてだった。
司の後を追いかけようと、思い切りドアを開けたが、その姿は無く、なぜかドアノブにコンビニの袋がかけられていた。

「なんか、マズイ事になったね?」
俺の背後から顔を覗かせておーはらが言う。が、その顔はうっすらと笑みを浮かべていて、まるでこの状況を楽しんでいるかのようだった。
「勘弁してくれよ!こんな事であいつを怒らせたら・・・・」

ドカッとベッドに腰を降ろし、自分の頭を抱えながら心臓がバクバクしているのを感じていると、
「じゃあ、ボク帰りまーす。お大事に!」

呑気そうに、おーはらが玄関で靴を履くと手を上げていった。

「帰れ、帰れ。・・・・」
少々邪険に言ってしまったので、おーはらもそれ以上はしゃべらずに、静かにドアを閉めた。



- ヤバイ、やばいよ・・・・絶対アイツ誤解したよな?!
司は何事にも冷静で、俺と違って分かりにくいんだ。怒っているのかどうか、口に出して言う事が無い。
まあ、今までこういう事で誤解を受けるような事もなかったんだけど・・・・・

「あ、そうだ携帯・・・・」
独り言を言いながら、携帯電話を出すと司に掛けてみた。

- - - - 

出ない。


- - - - 


やっぱり怒ってるんだ・・・・・・・。


深いため息をつくと、そのままごろんとベッドに横たわり、天井を見上げた。
やけに天井の木目が気になる。
人の顔に見えてきて、俺を非難しているように感じるのはなぜだろう・・・・

確かに、おーはらをベッドに引っ張り込もうかと一瞬頭をよぎったが、それは司への腹いせだから。
本気でそんな事するわけない。


益々頭が痛くなって、結局その日は司とは連絡が取れず、俺は眠れぬ夜を過ごした。




朝になり、重い頭を抱えて工場についた俺に、一本の電話が入った。
親父からの電話で、その内容は今の俺には衝撃的なもの。

「工場を譲渡する。」

この会社は事実上倒産。
でも、事業は譲渡して、そこで引き続き仕事をさせてもらう。という内容だった。

- 別の悩みを抱えてる俺には重すぎるよ。親父が好きにすりゃあいいさ。

半分投げやりな気持ちになる。
工場を存続させようと必死になることが、なんだか空しくなった。

司と連絡が取れない方が、今の俺には重要だった。アイツの部屋へ行ったけど、もう出かけた後らしくて、女々しく会社に電話なんかできないし・・・・。

仕事は何とでもなる。けど、7年の歳月を過ごした司との思い出は消したくない。
それほどまでに、俺の中では司の存在が大きくなっていた。





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